蟻地獄の季節【詩】

大人は わかってくれない

子供も わかってくれない

二ヶ国語 話せるのに
言葉が通じない

生まれも育ちも 思い出せない
ふるさとの空気が 思い出せない

みんなみんな楽しそう
笑いかけられてる どうしよう
吐き出す言葉 意味が一方通行
私も含め 誰も彼も 瞳の奥に 
闇を 宿して いそうだ

シャンデリア シャンパングラス
シシリーの砂の砂時計
白いシャツの左胸
しくじりそうな 余計な心配

鼓動が こんなにも
小刻みになるのは嫌だ
コミカルにコメディに
いっそなればいい時が経てばいい

テーブルの奥 染み抜き職人修復職人
仕事のたくみさを 誰もわかってくれない
グランドホテルのお抱えだって
息絶え絶えの日々 小声

背中に貼りついたのは 枯葉じゃなくて
あなたから見える私は私じゃない
着飾ってみても 着崩してみても
新しいシャンプーに代えたとしても
掃除しても 片付けても
あなたの声にウットリしても
パーティで お茶うけで
お夜食の時 箸を持つ手に
日々という日々が くるくるまわり続け
肩書きが肩にのしかかる
酔っ払って 自分の名刺で
手首を切り付けても 切れない
しらばっくれるフリも 出来ない
月々の支払いが 又来る
絶望スレスレ 今の生活
切なに願う お題目も忘れ
ウツにでも なれたらだなんて
チェックシートは血を吐かない
いたって普通 いたって元気
健康診断に暗澹としたくても出来ない
寒暖の差 激しい季節の折りには
温泉を求めて健康ランド
サウナで汗をかきながら
でも この胸の奥の穴はそのまま

叫ぶほど痛くなく
黙るほど冷めてもなく
サケサメタラコイ コイサメタラサケ
指先の髪のらせんが なめらかすぎて
それでもエメラルド コンディショナー
すがりつきたくもなる プロフェッサー
砂時計を手放せない 日々
染み抜きを止められない 日々
あるものがないものに ないものがあるものに
自然であるものを不自然がる
誰かが誰かを見つめてる

(2004.2.3)